前回の続き、桃華ちゃまLVMAXバースデーコメ(2013年の)参照

※時代設定とか色々荒唐無稽なので注意ですよ




桃華の誕生日を真っ先に祝おうとして、彼女のプロデューサーであるボクは、東京から電車で神戸へ向かい、
夜中こっそりと、彼女の家におじゃました。神戸駅から桃華の家まではタクシーだ。
 使用人さんとは面識があり、桃華からは『住んでもいい』と言われてるので、それなら部屋を借りるのも大丈夫だろうと思い、
使用人さんに頼んで、桃華の隣の部屋を貸してもらった。
 もちろん、桃華が寝ているので起こさないように慎重にその部屋に入った。
 それと同時に眠気が襲ってきたので、携帯で時刻を確認したら、まだ午後の10時をわずかに過ぎた程度だったので、
これくらいなら桃華より先に起きれるだろうと予測して、遠慮無くベッドに入った。
 それからのことは前回を参照して欲しいが、要約すると、『怖い夢を見て桃華とボクが同時に起きて廊下で鉢合わせしたからとりあえず誕生日を祝って
正式にはまた寝て起きてから祝ってプレゼントを渡した』ということがあった。
 
 それから、彼女の誕生日ということで、今日一日の桃華のエスコートを頼まれた。
 学校は灌仏会という釈迦の誕生日を祝う行事で休みらしい。彼女の通っている小学校はキリスト教系のはずだが、
多様性を重んじる校風のためか主要な宗教行事の日は祝日扱いにしているそうだ。
 ボクも当然前後数日の休暇をとらせて貰ってるため、問題はない。
 普段から彼女のエスコートを頼まれることは多いが、そのたびに懸念の言葉をついこぼしてしまう。今回も同じだ。
女の子を振り回すのは好きだがエスコートとなるとどうしていいかわからなくなる。
「ウフ。任せますわ」
 それでも桃華ちゃまはボクに期待してくれている。その期待に少しでも応えられるように、ボクができることを考えよう。
「それじゃあまず、服を脱いでくれる?」
「……Pちゃま……はぁ」
 普段の彼女からは想像できないような冷たい目線。心底呆れ返ったようなため息。……とってもゾクゾクする。
「いや、その可愛らしい格好だと桃華ちゃまだってわかっちゃうでしょ?アイドルの櫻井桃華がボクと一緒にいたら……
恋人同士だって『誤解』されてしまうだろうしね」
 誤解じゃないが。
「……そ、そういう意味でしたの……ごめんなさい。……でも、プロデューサーとなら、お仕事の打ち合わせとか……
いくらでも一緒に出掛ける理由はありますわよね?」
「それはそうだけど後で弁解する必要があるかもしれないし……さっさと脱いで」
「えっ、ちょっと!?わたくし、Pちゃまとお出掛けできると思って……一生懸命コーディネートしましたのよ!?」
「うん。知ってる……だからこそ、それを台無しにしたいんだ」
 ボクはそう人の心の機微に敏感ではないが、さすがに人一倍ファッションに気を遣う彼女が、
恋人とのデートにはなお熱心に服装を選ぶことくらいはわかる。
「……Pちゃまのおっしゃることはよくわかりませんわ」
「わかりやすく言うと桃華ちゃまを傷つけるのを楽しみたいんだ」
「Pちゃまには人の心がありませんわ」
 そこまで言われるのは心外だ。
「まあ脱がなくても髪飾りを外すだけでいいんじゃないかな?正直言って桃華ちゃま髪飾り外すと誰かわからなくなるし」
 髪飾り。櫻井桃華のトレードマークの一つ。今の彼女がつけているのは、黒地に白のラインが入っていて、白のフリルがついたヘッドドレス。
その両端には薔薇の形のピンクの飾りがついていて、赤のリボンが垂れている。
「……」
 桃華は悔しそうにしている。それはそうだろう。『髪飾りを外すと誰かわからなくなる』と、何人、何十人から言われて、
それに対してどうすれば髪飾りを外しても自分だとわかってもらえるか、その答を見出だせてはいないのだ。
 ……でもそれは、プロデューサーであるボクも考える必要がある問題でもあるんだよなぁ。
「……意地悪はこれくらいにして。眼鏡と帽子用意してきたから、これをつければ大丈夫だと思うな」
「もう……意地悪で済ませないで……」
 そう言って、彼女は髪飾りをボクに預け、度が入ってない赤フレームの眼鏡と、黄色の通学帽を身につけた。
「……ちょっとこの帽子は……服には合いませんわね」
「桃華ちゃま、桃華ちゃまが低学年の時、通学帽ってあった?」
「……?ありましたけど?今も学校に行くとき通学帽は被ってますわ」
「ふーん。どんなデザイン?」
「……まさか、この帽子は低学年の子が被る通学帽だなんて言いませんわよね?」
「そもそもボクが小学生のころ住んでた地域では低学年の子しか通学帽は被ってなかったなぁ」
「……う、うう……」
 ちょっと涙ぐんでいる。かわいい。
「気にしないで。女の子に小さな子供みたいな格好をさせて辱めたいだけだから。桃華ちゃまを子供扱いしてるわけじゃないよ」
「……プロデューサーにそんな趣味があるのは気になりますけど……」
「まあこっちの帽子でもいいんだけどね」
 もう一つ用意していた帽子をスーツケースから取り出す。黒地に金箔押しで羽根の模様が描かれているツバが広い帽子だ。
「……それにしますわ」
 黄色の帽子をボクに返し、もう一つの帽子を被る桃華。
「ちょっと緩いかな?……大丈夫?」
「……ええ、大丈夫ですわ。前が少し見づらいですけど……Pちゃまがエスコートしてくださいますからね!」
 桃華は目隠しされるのが好きだからこのくらいは外でも(少なくとも心理的には)どうってことないだろう。
「……うん。ただよくわからないけど……この帽子もちょっと似合わないかなぁ」
「ウフ。でもPちゃまが真剣に選んでくれたのでしょう?ありがとう」
「真剣に選ぶのは当然だよ。桃華ちゃまが身につけるものだからね」
 ……そんな当然のことに対しても、感謝の気持ちを惜しまないのが我々の桃華だ。
「ねえ桃華ちゃま。誕生日なのに悪いんだけど、ちょっとボクが行きたいところに付き合ってくれないかな?」
「いいですわよ。Pちゃまと一緒なら、Pちゃまの望む場所なら」
「ありがとう。……戸締り……は使用人さんがいるから別にいいのか。……用意はできた?」
「ええ。Pちゃまの方こそ、大丈夫?」
「うん。財布とハンカチとティッシュとペットボトルのコーラ1本とスポーツドリンク3本……
あと地図と携帯電話とパソコンとトランプもね」
「……ペットボトル多すぎません?……まあいいですわ。行きますわよ!」
「うん。じゃあ行こうか!」
ボクが左手を差し出すと、桃華はその手首あたりに右手を添えた。
「ところで……行きたいところって?」
「駅だよ」
「駅?」
 
 西暦2411年に開通した第二新神戸モノレール。レールにぶら下がるようにして車両が走る、懸垂式モノレールだ。
懸垂式モノレールにも種類があり、第二新神戸モノレールはサフェージュ式らしいが、詳しいことはわからない。
 ただ、とにかくボクは懸垂式モノレールというものが好きだ。昔ボクが所属していた組織の創始者は、
妙な友人に薦められた懸垂式モノレールが出てくるアニメに発想を刺激されることが何度かあり、
それで懸垂式モノレール自体にも何度も乗るようになったらしい。ボクもその話を聞いて、そのアニメを見て、
同じように懸垂式モノレールに憧れ、機会があれば乗るようにしているというわけだ。
「……なるほど……そういうことが……」
「去年も桃華ちゃまの家におじゃました時乗ったんだけどね。今年は桃華ちゃんと一緒に乗りたいと思って」
「ふふっ。いいですわよ」
「ありがとう。……でも退屈かもしれないよ?」
「あら。Pちゃまが退屈させないでくれるのでしょう?」
「そうできるといいんだけどね」
 そんな話をしながら、ボク達はむやみに長い桃華の家の通路を抜けて、むやみに広い庭を使用人さんに案内してもらい、
むやみに大きい門から、やみくもに外へと歩き出した。
 一応目的地はタクシー乗り場だ。……地図があるからそこまでひどく迷いはしないだろう。
「……ここを左かなぁ」
「Pちゃま、大丈夫……?」
「大丈夫じゃなくてもついてきてね」
「……はい」
 彼女から授かった役目。その役目からボクを外すことは誰にも……桃華にもさせはしない。
彼女が誰かを死に追いやることがあってはいけないから。
 ……というのは建前であって、本当はボクが死にたくないから。消えたくないから。
 でも。
 何処にもいない、誰でもない、何でもない、どうしようもないボクに。
 そう思わせたのは桃華だから。……って、責任転嫁をするのはよくないか。
 とりあえず、ボクの腕に小さな手を添えている彼女がボクを信頼してくれてるうちは。
 思う存分ミスディレクションしてやろう。

続く