青空の突き刺す屋根 1章(1)

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 僕が昼寝から目を覚ました頃には、すっかり日も暮れて、窓を覗いてみるとそこから見える家並、木々、道路、電柱…そういった景色は夕焼けに染まっていた。
 慌てて時計を見る。…ああ、もうこんな時間か。そろそろ夕食の準備もできたころだろう。僕は階段を降りてダイニングルームに向かう。妹のスイがハンバーグとライスを箸でつまんで食べていた。
「おはよう」
「今日は母さんは仕事か」
「うん」
どうやら夕食の準備は僕が寝ている間に終わっていたらしい。何が「そろそろ夕食の準備もできたころだろう」だ、カッコつけやがって。と数十秒前の自分に悪態をついてから冷蔵庫の中にある自分の分のハンバーグをレンジで温める。飲み物はもちろん紙パックのコーヒー牛乳だ。いや単にそこにあっただけの話だが。
 スイの向かいに座って黙々と夕食を食べる。
「…」
「…」
無言のまま時が過ぎる。このままじゃよくないな、何か話そう。
「なあ、スイ…」
「何?」
「…何でもない」
 これといって話題もないことに気付いてしまった。平日ならともかく、休日となると会話が続かない。いつからだろう、二人の会話が少なくなったのは。今年の4月、スイは小学5年生になり、自分は高校に入学した。少なくともその前はこんなんじゃなかったはずだ。一体どうしたんだろうか。
「…ごちそうさま」
 考え事をしていたらスイが先に食べ終わった。自分のほうが食べ始めるのが遅く、ご飯とおかずの量も多かったとは言え、本気なら自分の方が先に食べ終われていたはずだ。母がいないときは食べ終わったのが遅い方が食器洗いをする暗黙のルールになっているのに。
 スイは居間のソファーに寝っ転がり、読みかけの分厚い本を開いた。
「ごちそうさま」
 遅れて自分も食べ終わる。食器洗いを済ませると、額に汗が滲んできた。それにしても暑い。そうだ、アイスでも買いに行くか。
「ちょっと買い物行ってくる」
スイに声をかける。
「うん、いってらっしゃい」
スイは本から目を離さずにそう返事をした。
 ビーチサンダルを履いて玄関から出る。外はだいぶ暗くなってきたが街灯が必要なほどじゃない。歩いて3分ほどのコンビニに向かって歩き出す。どのアイスを買おうか考えながら。
 そんな気楽な外出が、僕をそれまで思いもしなかったような出来事に引き合わせた。